心筋梗塞心電図の経時的変化08-秋山俊雄.pdfVIP

Ⅲ．P波と心機能および予後の関係 　 秋山俊雄 （ローチェスター大学内科心臓学名誉教授） 1．はじめに 　前 2回の心電図講義（予後シリーズ I,Ⅱ）では，①「心電図正常」と診断された患者は心機能が正常であ り，予後良好の確率が高いこと，②安静時心拍数は 50〜 60拍 /分の場合に予後が最も良好で，それよ 1），2） りも速くなると予後が悪化することを述べた ．筆者は，心電図波形が心機能や心疾患の重症度およ び予後を推測するバロメータの役割を果たすと考えているが，P波もその例外ではない．今回の講義で は，P波形から推測される心房の病態，心機能および予後について考察する． 2．異常P波が記録された2人の患者の心電図 　はじめに 2人の患者の安静時 12誘導心電図を提示する（図 1, 2）．各々の心電図には，患者の病態， 心機能および予後を推測する多くの情報が含まれている．それらに重点を置いた筆者の読み方は，本講 義の終盤で述べる（p.508）． 3．P波の成り立ち a）心房筋細胞の活動電位と P波 　第 5回の心電図講義で述べたように，心室筋細胞の活動電位脱分極相（0相）と再分極終末は，各々同 ⃝Keywords ；異常 P波，左房負荷，右房負荷，予後，心機能，心疾患 JPN. J. ELECTROCARDIOLOGY Vol. 31 No. 5 2011 493 A B 図 1　安静時12誘導心電図（患者①） 49歳男性（肥満あり）．早朝に繰り返す胸骨下部痛があり，救急車で病院に搬送された．搬送途中に心 室細動が発生し，直流通電による除細動が行われた．これらの心電図から心機能の変化や予後を推測す ることは可能だろうか？（心電図記録は 1 mV/10 mm, 1 sec/25 mm） Ａ：救急外来到着時に記録された心電図．胸痛と広範囲の ST上昇は，ニトログリセリン舌下投与によ り 5分以内に消失した． Ｂ：V 誘導心電図の経時的変化．（ ）は洞性 P波の起始部を示す．救急外来到着時の V 波形．このと 1 ・ 1 きは胸痛に加えて呼吸困難があり，頚静脈圧は 11cm H O，両側肺底部に湿性ラ音が聴取された（上段）． 2 約 19時間後の心電図（中段）．翌日（約 36時間後）の心電図（下段）．この時点では呼吸困難の訴えは なく，身体的所見は正常化している． 494 JPN. J. ELECTROCARDIOLOGY Vol. 31 No. 5 2011 A